
Killing
2024, installation (quotations, sources, lottery tickets, map, little jars, placebo and medicine (both of pills and boxes of both), water, glasses, humans, venue manager, contract, consent, any two-person deterministic perfect information game(as you like), any pick-me-up(as you like), anything to kill time(as you like))
空間にはパフォーマーが常駐している。
部屋の床には白いじゅうたんが敷かれ、ベッド、テーブル、スツール、クッションが置いてある。壁には絵、封筒の束のある棚、グラス類の載った棚、カード帳がある。パフォーマーはベッドや床にいる。



封筒には、会場から徒歩圏内の宝くじ売り場を示した地図が書かれている。パフォーマーが来場者一人に一枚渡す。

ベッドの枕元には文庫本、ウェットティッシュ、ペン、清涼菓子などがある。壁には宝くじ券が並んで貼られている。

テーブルにはボードゲームがある。来場者はいつでもパフォーマーや、来場者同士で遊ぶことができる。必要に応じてルール説明がされるか、ルールシートを渡される。このゲームは二人確定完全情報ゲームである。すなわち、二人で行ない、手にランダム性がなく、局面の情報がすべて公開される。


壁の棚に、二個のグラス、二個の小瓶、二種類の薬箱、二種類の書類が置いてある。
次のようにパフォーマーが説明する。
本作品では、決闘に参加できます。チケットは紙の宝くじ券1枚です。決闘は「毒薬の決闘」です。二種類の錠剤があります。ひとつは風邪薬、もうひとつは偽薬です。錠剤の見た目は同じです。これを一錠ずつ小瓶に入れ、シャッフルしてから、二人で一錠ずつ飲みます。風邪薬を飲んだ場合、眠くなることがあります。
参加する場合、机上の契約書と同意書に署名いただきます。契約書は宝くじ券の譲渡に関するもの、同意書は錠剤摂取が双方の自由意志にもとづくことを証明するものです。




宝くじ券を持参した来場者は、決闘に参加できる。契約書、同意書が三枚ずつ用意されるので、署名と捺印をする。印鑑がない場合は拇印を捺すこともできる。三枚は、参加する二者、そして展示会場責任者が一枚ずつ受け取る。譲渡者は契約書に、宝くじの種類・番号と連絡先を記載する。宝くじの所有権および当せん金の権利は受領者に移動するが、当せんした場合、譲渡者にすみやかに通知される。同意書は、錠剤摂取が自由意志にもとづき、強制や圧力がないことを確認する。進行は会場責任者もしくは責任者の委託を受けたスタッフが行なう。水の種類を選ぶことができる。















パフォーマーが受領した宝くじ券は、ベッドの枕元の壁に並べて貼られる。




壁のカード帳は、自由に手にとって読むことができる。表紙には作品のキャプションが記されている。以降は以下の文章が順不同で含まれている。原語にかかわらず、すべて日英の対訳と出典情報が載っている。訳はすべて大岩雄典による。以下には日本語のみ記す。
決闘とは当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行をもつて争闘する行為を汎称する〔…〕
(最判昭和二六年三月十六日(昭和24(れ)1511号)、刑集第5巻5号755頁)
第一条 決闘を挑んだ者またはその挑戦に応じた者は、六か月以上二年以下の懲役に処し、十円以上百円以下の罰金を併科する。
第二条 決闘を行った者は、二年以上五年以下の懲役に処し、二十円以上二百円以下の罰金を併科する。
第三条 決闘により人を殺傷した者は、刑法の各本条に従って処断する。
第四条 決闘の立会を行った者、または立会を行うことを約束した者は、証人や介添人などの名目に関わらず、一か月以上一年以下の懲役に処し、五円以上五十円以下の罰金を併科する。
② 決闘の場所を提供した者、またはその場所を利用させた者も、前項と同じ罰則に処する。
第五条 決闘の挑戦に応じなかったことを理由に他人を誹謗中傷した者は、刑法に従い、誹謗中傷の罪として処罰する。
第六条 前各条に記載された犯罪が刑法に照らして重い場合は、刑法の重い罰則に従って処断する。
(明治二十二年法律第三十四号(決闘罪ニ関スル件)、一八八九年。ただし現代語に訳した。)
第百八十七条 富くじを発売した者は、二年以下の懲役又は百五十万円以下の罰金に処する。
2 富くじ発売の取次ぎをした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 前二項に規定するもののほか、富くじを授受した者は、二十万円以下の罰金又は科料に処する。
(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十七条、一九〇七年。)
もし宝くじで数十億当てたなら、死にたいと願う人々の施設を作りたい。週末、毎週、毎月、快楽のうちに、おおかた麻薬漬けで過ごして、やがて消え去るように、静かにいなくなるための。
――自殺する権利ですか。
そうですね。
(ミシェル・フーコー「無限の需要の直面する有限の制度」、一九八三年。)
私はこう決めた――いよいよ時機がきたら、相手に、二つに一つをとらせて、私は残ったほうの錠剤を飲む。ハンカチ越しに撃ちあうよりも、ずっと静かに命を委ねられる。
(犯人、アーサー・コナン・ドイル『緋色の研究』、一八八七年。)
彼らの罪は知っていた。だからこそ、私は自らが裁判官であり、陪審員であり、処刑人であると決意した。君だって、もし男としての誇りがあるなら、私の立場に立ったなら、同じことをしたはずだ。
(犯人、アーサー・コナン・ドイル『緋色の研究』、一八八七年。)
このように、裁判を決闘によって行なう仕組みには、血族全員を駆り出す争闘を個別の争闘に変え、裁判所に力を取り戻し、万民法にしか従わなくなっていた人々を市民の状態に戻せるという利点があった。
賢明なことが極めて狂気じみた仕方でなされることが無数にあるように、狂気じみたことが極めて賢明な仕方でなされることもあるのだ。
(シャルル゠ルイ・ド・モンテスキュー『法の精神』、一七四八年。)
栄誉上已むことを得ざる時に当て、決闘するのは、国の元気に基つくもので、之を否とするものは、国の元気を衰へしむるものてある。
(光妙寺三郎「決闘論(五大法律学校討論筆記の一節)」、一八八八年。手塚豊「光妙寺三郎の決闘是認論及び「決闘条規」:明治法制史料拾遺(9)」(一九七〇年)に採録。句読点は手塚。)
決闘裁判は、紛争を自力で解決するための神聖で公的な一対一の戦いであった。〔…〕やがて、公権力(中央権力)は、自身の充実とともに決闘裁判を禁止とし、廃絶する。
(山内進『決闘裁判:ヨーロッパ法精神の原風景』、筑摩書房、増補版:二〇二四年、一八九頁、二三六頁。)
通常、人が決闘に合意するときは、適切に同意された条件と手続きの下で、彼の生命を奪う権利を相手に与えている。なぜ決闘は、「欲すれば不法なし」の原則に照らしても許されないのか。〔…〕生命権が所有権であると認めるならば、それを浪費し、愚かにリスクにさらし、あまりに安々と手放す権利も、認めて然るべきだ。
(ランス・K・ステル「決闘と生命権」、一九七九年。)
決闘の挑戦は、する側にとっては自由意志の一行為でも、相手には殺し合いか不名誉かの避けがたい板挟みを強いる。そのような状況で挑戦に応じても、圧迫なしに完全に自由な意志でリスクを引き受けたとは言えない。
(ジョエル・ファインバーグ『刑法の倫理的限界 第一巻:他者にたいする危害』、一九八四年。)
ドイツの弁護士によれば―「決闘がそれ自体違法であるのは、公共の平穏を乱すからでも、正義の公的執行を私的暴力によって簒奪するからでもなく、生命と身体を用いた罰せらるべき賭博であるからだ〔…〕」
(ジェイムズ・フィツジェイムズ・スティーヴン『イングランド刑法の歴史 第三巻』、一八八三年。)
私は、それがどのような種類のものでも、オーバードーズで死にたい、そう望んでいます(笑)――快楽のオーバードーズで。
(ミシェル・フーコー「ある最小限の自己」、一九八三年。)
補足 壁の絵は、共同展示者の飯川雄大のドローイング「referee stop」シリーズ。ボクシングの試合におけるレフェリー・ストップを主に描いている。
補足 「決闘罪に関スル件」は日本の刑法のなかで最も古い特別法のひとつ。明治に刑法草案に決闘罪の規定を導入したのは、お雇い外国人でフランス人法学者のギュスターヴ・ボアソナード。もともと決闘の禁止は中世以降のヨーロッパで生まれたもので、その導入は日本の近代化すなわち欧化の一部である。「宝くじ」は、刑法で禁止されている私的な「富くじ」とは区別される。地方自治体が財政に当てることを目的として発行する「宝くじ」は正式には「当せん金付証書」と呼び、「当せん金付証書法」で法的に規定されている。たとえば宝くじの転売は違法である。
Duet Exhibition 'The Blue Sky, Count of Ten'
10.19.2024-11.17.2024, at TALION GALLERY
co-exhibitor: Takehiro Iikawa (drawings on wall)
performer: Euske Oiwa, Maaru Hiyama, Sota Kodera, Shintaro Okada, Mari Shirakawa
install support: YUNA Yokose
archive photo: Kai Maetani