Slow Actor

2019, installation

space design: Risako Okuizumi

voice: Yaka(Japanese), Kyle Yamada(English)

割れた花瓶と花を通り過ぎて、1階に入る。暗い空間に、木材やブロック、布などが瓦礫のように積み上がっている。

置かれたプロジェクターが、せりふを繰り返している。

たとえば……
あっ 通信、切れてたかな
落ちた?
そこにいるのは?
いつから来たの?
いまさっきから?
事前から?
……言ってる意味わかる?
わからないなら、事前の人じゃないね。
まあいいや。別の質問のしかたがある。
たとえば……
イヴ・クラインのことを知ってる?
わかってる?
わたしにはわからないけれど。何度聞いても。
いや、それはいいんだ。あなたがわかっていれば。
わたしは、与えられたメンテナンスだから。
レディメイドのメンテナンス。
わたしだけなにも知らないままでいる、
そういう役割の、メンテナンス。

なにかを知ることは、取り返しがつかない
言ってる意味わかる?
与えられたものは、忘れてから思い出すことはできるけれど、
また知ることはもうできない。
……これも、思い出した?
それとも、はじめて知った?
……わたしはまだ何も知らないけれど。
あなたの知っていることがあなたのメモリー。
……イヴ・クラインのことを知ってる?
もしくは、虚無への飛翔のことを知ってる?
長話はよくないね。もう知っていることかもしれないし。

奥の床には、ハンドアウトのようなプリントが散らばっている。

二階へ上がる。薄暗い踊り場に、ディスプレイが横倒しで展示されていて、映像が流れている。フレームに張られた布に載っていて、布は深い青色をしている。

映像は、ある男の物語のようだ。「やがて落ちてしまう毒」を盛られたらしい男は、その解毒剤を階下へ取りに行く。だが何度向かっても、海や、川や、滝にたどり着く。そのたび男は濡れた本を一冊見つける。イヴ・クライン『柔道の基礎』、ジェイムズ・ジョイス『フィネガンズ・ウェイク』、バス・ヤン・アデル『ナイアガラに落ちた少年』、コナン・ドイル『ホームズ最後の事件』……。。いずれも「落ちる人々」が登場する本だ。男はそれを読み終えてまた階段を降りていくのだが、かならず足を踏み外してしまう。この映像には、明確な始まりも終わりもない。

2階の展示室へ向かう。

飾られた絵に近づくと、ところどころに小さな文字が見つかる。

歩くと水がわずかに揺れる。

カウンターの裏で手に入るハンドアウトは、1階に散らばっていたものだ。

浅い階段を昇っていくと、視点が少し高くなる。

階段を昇ってカーテンを覗き込むと、バルコニーに、花の活けられた、割れていない花瓶がある。

カーテンを開けるとプールがある。

再び1階へ降りる。1階に落ちている箱や木材、ブロック、布などは、2階の展示室にあった什器や階段、カーテンなどと一致しており、おおむね真下の位置に散らばっている。

冒頭のところで真上を見上げる。バルコニーにあった花瓶が見える。

Exhibition 'Slow Actor'

2.9.2019-3.2.2019, at Komagome SOKO

space design: Risako Okuizumi

curation: Taichi Sunayama

install support: Tomoyuki Eguchi, Jean-françois Herbet, Chihiro Matsushita, Rioha Nishimura, Mai Nunoya, Risako Okuizumi, Taichi Sunayama, Tatsuya Usui, Yuu Yamamoto, Shuntaro Yoshino

archive photo: Yo Noguchi